「YES」なのに伝わらない?断定を避ける日本的表現が招くビジネスでの誤解と不信感

グローバルビジネスにおいて、日本的な「謙虚さ」や「断定を避ける表現」は、相手に「自信のなさ」や「準備不足」と受け取られ、信頼を損なう最大のリスクとなります。事実には「I think」を使わず、不確実な場合でも根拠を添えて言い切る姿勢こそが、プロフェッショナルとしての信頼(Trust)を築く鍵となります。

なぜ日本人の「曖昧さ」は海外ビジネスで嫌われるのか?

「このプロジェクトは成功すると思います」「たぶん、その納期で大丈夫です」。
日本のオフィスでは日常的に飛び交うこれらのフレーズ。日本語の文脈では、相手への配慮や謙虚さを含んだ「美徳」として機能します。

しかし、ビジネス英語の世界、特にローコンテクスト文化(言葉そのものに重きを置く文化)において、この「曖昧さ」は致命的な「誤解」を生む原因となります。

「美徳」が「自信のなさ」に変換されるメカニズム

欧米を中心としたビジネスシーンでは、「発言すること」=「責任を持つこと」と同義です。そこで文末を濁したり、主語を曖昧にしたりすることは、以下のようなネガティブなメッセージとして変換されてしまいます。

  • 「自分の意見に責任を持ちたくないのか?」
  • 「事実確認を怠っているのではないか?」
  • 「この人に仕事を任せて大丈夫だろうか?」

つまり、あなたが相手を尊重して使ったはずの柔らかい表現が、皮肉にも「信頼(Trust)できないビジネスパートナー」というレッテル貼りに繋がってしまうのです。

「I think」の罠:無意識の口癖が信頼を削る

日本人の英語学習者が最も頻繁に使い、かつ最も誤解を招きやすいフレーズが「I think」です。学校では「〜だと思う」=「I think」と習いますが、ビジネスの現場ではそのニュアンスに注意が必要です。

ネイティブが受け取る「I think」の本当のニュアンス

ビジネスの文脈、特に数字や事実を報告する場面での「I think」は、「確証はないけれど、たぶんそう思う(間違っていても責めないでね)」という「逃げ」のニュアンスを含んで響くことがあります。

日本人が伝えたいニュアンス 相手に伝わっているニュアンス
これくらいで大丈夫だと思います。(丁寧・控えめ) 裏付けがないので自信がありません。

例えば、来期の売上予測を聞かれた際に「I think sales will increase by 10%.」と答えたとします。これを聞いた上司やクライアントは、「データに基づいた分析ではないのか?」「ただの勘なのか?」と不安を覚えます。

事実を述べるときは「I think」を捨てる

データや確定した事実がある場合、そこに「I think」を付ける必要は全くありません。シンプルに事実を述べることが、最も力強い断定表現になります。

以下の例文で比較してみましょう。

【例文】
I think the deadline is next Monday.
締め切りは来週の月曜日だと思います。(自信なさげ)

The deadline is next Monday.
締め切りは来週の月曜日です。(事実としての断定)

事実には主観(I think)を混ぜない。これだけで、あなたの発言はぐっとプロフェッショナルに聞こえるようになります。

「Maybe」と「Perhaps」が招くリスクと誤解

「I think」と同様に、日本人が多用しがちなのが「Maybe(たぶん)」や「Perhaps(おそらく)」です。特に、断りにくい場面や、確約できない場面で「Maybe」を使って濁すケースが散見されますが、これは非常に危険です。

「NO」と言えない日本人の「Maybe」

「来週までにできますか?」と聞かれ、厳しい状況であるにも関わらず「Maybe…」と答えてしまう。日本人の感覚では「(察してください、無理です)」という意味であっても、英語圏の相手は「(条件次第では)できる可能性がある」=「YESに近い」と受け取ります。

結果として、期日になって「できませんでした」と報告することになり、相手からは「なぜあの時Maybeと言ったんだ!嘘をついたのか!」と激怒される事態になりかねません。

信頼を勝ち取る!断定しつつ「丁寧さ」を保つ表現テクニック

では、どのようにして「断定」と「丁寧さ」を両立させればよいのでしょうか?
ポイントは、単に言葉を強くするのではなく、「根拠に基づいた確信」「コミットメント」を示す表現を選ぶことです。

1. I think を卒業し、確信度を上げる表現

自分の意見に自信がある場合、あるいはデータに基づいている場合は、より強い動詞を使います。

【例文】
I believe this strategy will be effective.
この戦略は効果的であると信じています。(個人的な強い意見)

I am confident that we can meet the target.
目標を達成できると確信しています。(根拠のある自信)

I am convinced that this is the best solution.
これが最善の解決策だと確信しています。(客観的な確信)

2. 「Maybe」を使わずに状況を説明する

不確定な要素がある場合でも、「Maybe」で終わらせず、「何が決まれば断定できるのか(条件)」を明確にします。

【例文】
It depends on the budget approval.
予算の承認次第です。(条件の提示)

I cannot say for sure at this moment, but I will check and let you know by tomorrow.
現時点では確実なことは言えませんが、確認して明日までにお知らせします。(次のアクションの提示)

3. 丁寧に、しかし明確に「NO」を伝える

ビジネスにおいて、できないことを「できない」と伝えるのは誠実さの証です。「I’m afraid…(恐れ入りますが)」をクッション言葉として使い、結論は明確に伝えます。

【例文】
I’m afraid that won’t be possible due to the tight schedule.
恐れ入りますが、スケジュールが厳しいためそれは不可能です。

Instead of that, I would propose an alternative plan.
その代わりに、代替案を提案させてください。

まとめ:断定は「冷たさ」ではなく「プロ意識」の表れ

ビジネス英語において、曖昧さを排除し、明確に断定することは、相手を突き放すことではありません。むしろ、「あなたの時間を無駄にしません」「私は自分の仕事に責任を持ちます」という、相手への敬意とプロ意識の表明なのです。

最後に、本記事の要点をまとめます。

【記事の要約とポイント】

  • 曖昧さはNG:日本語的な「察しの文化」は海外ビジネスでは「自信不足」「無責任」と誤解される。
  • 事実と意見の区別:事実に「I think」は不要。言い切ることで信頼性が増す。
  • Maybeの危険性:「NO」の意味でMaybeを使うと、「YES」の可能性があると誤解されトラブルの元になる。
  • 代替表現の活用:「I believe」「I am confident」など、意思の強さを示す表現を使い分ける。
  • 条件付きの断定:不確実な場合は、Maybeで濁さず「It depends on…」と条件や根拠を明確にする。

日々の業務メールや会議で、まずは「I think」を1回減らすことから始めてみましょう。それだけで、あなたの言葉の重みと周囲からの信頼は確実に変わっていくはずです。

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